発達障害だったわたしへ

自閉症と虐待サバイバー/光はまだ、こそばゆいけれど……書いて見つめて生きていく/元全国紙記者/半分未練、半分隠居なう

歌舞伎役者の妻さんといちご大福のこと

前進する日もしない日も

毎朝9時過ぎになると、夜勤から引き継ぎを受けた日勤の看護師さんが、「検温」(けんおん)というのをしに病室にやってきます。その名のとおり体温や血圧などを計りながら、いまの体調だったり心の具合だったりを、ことこまかに聞きながら患者さんを回っていきます。

わたしは、そんな「検温」がきらいじゃありません。ああ、きょうは細かいことにうるさい看護師さんでゆううつな1日になりそうだなあなんて、プチがっかりする日もあるといえばあります。

けれども、そのときその瞬間の体調をノーシナリオでやりとりするのは、セッションみたいなライブ感があって好きです。前進する日もしない日も、そういう好きさは揺らがない。

入院して2ヶ月がたったわけですが、じつはわたし、いろんな紆余曲折をへながらですが、ここ2週間くらいで、新たな展開に向けて動き始めるフェーズへと入ってきています。

といっても「進学」「結婚」「転職」「離婚」「左遷」みたいな「Yes」「No」どちらでもないようなたぐいのことであり、ただ、新たな展開に向けて進んでいるという事実がそこにあるのみといったかんじです。

そんな状況のなかで迎えた昨日のセッションは、あまりイケていなかった。

一番の原因はなにかというと、やりとりのなかで、「新生活への不安と期待はどちらが大きいですか?」というピントはずれなボールを、看護師さんに投げさせてしまったということです。

わたしが「新生活」なんていう心はずむようなニュアンスを持つ言葉をチョイスしてしまったばかりに、気の利いた看護師さんは、そんな気遣う質問をしてくれたんだと、わたしは解釈しました。

だけどわたしは、その質問をされた瞬間、不安も期待もへったくれもないあのときあの瞬間の地蔵のような心を、どうしても看護師さんに開くことができなくなってしまったのです。

それからなんとなく気まずく、もやもやしながらイラっとした気持ちが、しばらくのあいだ続きました。だけど、あるどこかで聞いたことがあるようなひとつの気づきが、わたしの心を楽にしてくれました。

ざっくりと言ってしまえば、他人が「新生活」という言葉に、甘いチョコレートコーティング加工をしてこようがしまいが、自分とはまったく関係ないところにあるということです。

いちごはいちご

というのも、ここ数日、ある歌舞伎役者さんの妻が亡くなったことで、その事実をチョコレートコーティングしたような甘ーい記事を、わたしは遠くからぼーっと眺めていました。

いちご大福に言いかえてもいいかもしれない。もっとも彼女の存在そのものと向き合わなきゃいけない家族が、「アイシテル」という最期の言葉でもって、彼女という「いちご」を、クリームとあんこと大福とで包んでしまいました。

それを見聞きした周囲は、いちご大福にさらにお砂糖をまぶしたりキャラメルソースをデコったりして、さらに甘くして彼女のことを語り始めました。その気持ち悪さといったらありませんでした。

2度とほんものの「いちご」と出会えないように、家族みずからが封じ込めてしまったかのような、なんともいえないかんじもおぼえました。

もっとも、あまりにも受け止めがたいつらい現実だから、そうした“愛”こそ“正義”なんだと、家族が「選択」して「決定」したうえでのことならば、誰が否定できよう。

いずれにしても、いちごはいちご。それだけは揺らぐことはないとわたしは信じることにしました。闘った当事者でなければ見えない苦味や酸味、雑味、そんななかから生まれるコクやうまみは、いちごがいちごの中でしか見い出し得ないことです。

どんないちごも、まだ見ぬ世界に旅立つのは不安です。だから余計、他人によって甘いいちご大福にされてしまうことに、強い不安や抵抗を示してしまったりするんだと思います。

いちごとして選択する大切さ

だけど、たとえどんなに甘くくるまれてしまっている感があってもなくても、どっちでもいいんだけど、あの瞬間、自分が甘くくるまれるという「選択をした」のならば、それはほんものの「愛」なんだとも思うわけであります。

そんなことを勝手に思ってみたわけですが、わたしも(?)“いちご”として、くるまれたものを憎もうが受け入れようがどっちでもいいんだけど、いちごとして「選択をした」と意識していくことを大切にしていこうと、改めて心に刻みました。

そんなふうに思ったら、昨日のセッションの失敗なんて、ちっぽけなことだなって思いました。いちごにまつわるお話は以上になります。ご静聴ありがとうございました。

 

 

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